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子供の幸せを願って その2|2021年12月

 あれは息子が小学校6年生だった時のこと、彼は光栄にも運動会のリレーの選手に選ばれたのでした。誰よりも小柄で体の弱かった息子の立派に成長した勇姿に、私は祈るような気持ちと声にならない声で声援を送っていました。しかし残念なことに息子はゴール目前で転んでしまい息子のクラスは最下位になってしまいました。落胆する級友たちの声に顔を歪めて泣く息子の顔が、ふと今読んでいる本の一節で脳裏に蘇ってきたのでした。

 『世界一幸せな子どもに親がしていること』という本をご存じでしょうか。アメリカ人とイギリス人の女性がそれぞれオランダ人の伴侶を得て、自分の生まれ育った環境とはまったく違うオランダという国で妊娠・出産・子育てを体験し、その中で感じた様々なことが書かれているとても興味深い本です。オランダは、ユニセフの子どもの幸福度調査でも常にトップで、多くの子どもたちが生活に満足し幸せを感じている国なのです。ちなみにみなさん日本は何位くらいだと思いますか?いじめや生活満足度といった精神的幸福度の分野においてはなんと33か国中32位と日本はほぼ最下位なのです。トップのオランダでは実に90%の子どもたちが幸せだと感じているのに対し、日本では62%の子どもたちしか幸せだと感じていないのです。なお数学・読解力などの学力分野では日本はトップ5に入っているのですが、「すぐに友達ができる」といった社会的スキル分野においてはまたしても下から2番目なのです。

 ではどうしてこんなにオランダの子どもたちが幸せだと感じているのでしょうか。日本の子どもたちとはいったい何が違うのでしょうか。この本の中でたびたび出てくる『子どもをプレッシャーの中に置くことは最も避けるべきことだ』というオランダの教育方針は、明らかに日本とは違う部分の一つではないでしょうか。日本の子どもたちは小学校へ上がると同時に段階評価を受け、他者と比較され、時には連帯責任を取らされ、競争社会へと突入していくのに対し、オランダの子どもたちは学業成績でトップになることなどは求められておらず、子どもたちだけで外遊びをすることが励行され、遊びの中から自らが判断する力、社交能力や安全・環境面への配慮、他者との関係性などといった社会性を身に着けることに重点を置いて育てられているのです。

 オランダの教育は『人と競争させない』教育であり、それは勉強以外の場面においても同様で、運動会の競技も勝ち負けを競い合うことが前提ではないので、徒競走では仮に遅れている友だちがいたなら、その友だちを待ってから手を取り合って一緒にゴールするといった具合なのです。

 あいにく私の息子はそのリレーがきっかけかどうかは定かではありませんが、その後運動嫌いになってしまいました。でも彼は転んだ人に手を差し伸べるだけの優しい心を持ち合わせた大人に成長してくれたと信じています。他者と競り合うことを教育に取り込むとしたら、勝つことを目標にするのももちろん大事ですが、結果よりも他者への配慮や関係性を学ぶことにより重点を置くべきなのかもしれません。そして成功の体験よりもむしろ挫折や失敗の体験から学べるきっかけを作ることが重要なのではないでしょうか。

 テレビからは連日のようにいじめに関する痛ましいニュースが後を絶ちません。一人でも多くの子どもが幸せだと感じられる環境を作るためにも、その分野においては突出しているオランダから学ぶべきことがまだまだたくさんあるように思います。

(次月に続く)

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 赤沢保育園のクラスの動物のイラストを描いてくださったイラストレーターの西山りっくさんが、子どもたちと一緒にクリスマスお楽しみ会で飾る絵を描いてくださることになりました。詳細についてはまた別途ご連絡いたします。