園だより」カテゴリーアーカイブ

ダーニングとピリカ|2022年7月

 先月に引き続き、今月も SDGs にまつわるお話をしようと思います。
 さて、SD Gs については多少の理解は深まったけれど、では個人として何ができるのだろう、 何から始めたら良いのだろう、と思っている方もいらっしゃると思います。今日は個人でも気軽に始められそうな SDGs 活動を二つご紹介したいと思います。

 最近「ダーニング」という言葉を知りました。ご存じの方もいるかと思いますが、ダーニングとは、穴が開いたり擦り切れてしまった衣服を補修する方法で、古く からヨーロッパを中心に行われてきた技法です。ダーニングには主に二通りのや り方があるようで、一つはその衣服の色と同じ糸で目立たないように補修する 方法と、もう一つは逆に目立つ色をいくつも使い、繕った跡をその衣服の新た な個性として生かす方法です。最近にわかに巷ではやっているのは後者の方 で、装飾ダーニングと呼ばれています。私も見様見真似でやってみましたが、 これがなかなか面白いのです。機会があればワークショップなどに参加して基 礎からダーニングの方法を習ってみたいものです。ダーニングは趣味としての楽 しみも味わえますが、何よりも傷んでしまった衣服に再び命を吹き込み『捨てる』以外の選択肢を与えられるのはすばらしいことではないでしょうか。

 これからの季節、海水浴やキャンプに行く機会も増えてくることと思いますが、砂浜やキャンプ場などでポイ捨てされたゴミを見て不快な気分になった経験は 誰でも一度はあるかと思います。けれど不快に思うだけでなかなか『拾う』という行動にまでは及びません。ゴミ拾いはボランティア活動などのきっかけや一緒にやる仲間がいないと、個人ではなかなか『 拾う』勇気が持てないものです。でも「ピリカ」はグループでのイベントはもちろん、個人のごみ拾いもサポートしてくれるアプリで、自分が拾ったごみの情報をピリカのアプリを使って投稿することで、世界中で拾われたごみのカウントに自分の拾ったごみの数が加算される仕組みになっています。ボランティア活動は決して誰かに見てもらい褒められることを前提として行うものでは無いけれど、人知れずひっそりやるのもむなしいものです。ポイ捨てされるごみが無くなってくれることが一番ですが、日常生活の中で「ごみを見つけたら拾って捨てる」習慣が世界中の人々に広がれば、将来の地球は少しずつきれいになっていくことでしょう。

SDGsってなに?|2022年6月

 最近とてもよく聞かれるようになったSDGs(エス・ディー・ジーズ)という言葉ですが、この言葉の意味を聞かれたらちゃんと説明できるでしょうか?もしかすると若い世代の方がよっぽどこの言葉の意を理解されているかもしれませんが「今更人には聞けない」「そろそろ自分でもしっかり理解をしておこう」と思われている方も多いかと思い、ここでSDGs について少しだけ触れてみたいと思います。

 持続可能な開発目標( SDGs : Sustainable Development Goals サスティナブル デベロップメント ゴールズ)は2030 年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。では持続可能とは具体的にどういうことでしょうか?かみ砕いて書くと「自然環境が適切に守られ、未来の世の中で生きる人々が困ることなく、そして現代に生きる私たちの要求も満たされる」ことを「持続可能な社会」と呼びます。産業革命以降、飛躍的な進歩を遂げてきた私たちの生活は、その反面でたくさんの自然や資源を犠牲にしてきました。このままの生活を続けていくと、将来子どもたちが大きくなるころには地球はとても深刻な状況に陥ってしまうのは確実なのです。

 では私たち個人レベルではどのような取り組みができるでしょうか?

 節電・節水を心がける、マイバック・マイボトルを使う、フードロスを減らす、公共交通機関を利用する、ということが比較的日常生活に取り入れやすい個人でもできるSDGs 活動です。

 この言葉が飛び交うようになって、私は決まって過去の一つのシーンを思い出すのです。あれは20年以上も前のこと。冬の寒い時期、仕事中にふと同僚の女性の足元に目が留まりました。彼女の黒いタイツのふくらはぎ辺りに何かがついているのです。それが何かを確認したくて凝視すると何かが付いていたわけではなく、それは黒い糸で丁寧につくろわれた跡でした。「タイツに穴が空いたら新しいものを買って、穴が空いたものは捨てる」ことに全く疑いもなかった当時の私にとって、それは常識を覆す衝撃的な瞬間でした。物が溢れる時代に生まれた私たちには自然と物を大切にしない習慣が当たり前のよう に根付いているのです。古いものを捨てて新しいものに買い替える前に、少しだけ「まだ使えないか考えてみる」というプロセスを入れるだけでも私たちの生活は変わるのではないでしょうか。

3歳以上のマスク着用について

夏場のマスク着用は、熱中症防止の観点から園内ではマスクを外します。 衣替えのタイミングで切り替えますのでご了承ください。

活動によってはマスクを着用することもありますので、鞄の中には引き続き マスクのご用意をお願いいたします。

マスクを着用しない場合でも手洗い、「密」の回避等、基本的な感染症対策は継続いたします。

ワンオペ育児|2022年5月

この「ワンオペ」という言葉を知ったのは確か1~2年ほど前、某SNSの知人の投稿からでした。「週末は主人が仕事でワンオペなので実家に行きます。」というような内容の文章だったでしょうか?「ワンオペって何なに?」と疑問に思いつつも彼女の文章を読みすすめ、それが「一人で育児をする」という意味だと気づくのにそう時間はかかりませんでした。「そんな言葉が今は流行っているのか~。」と、ふと自分が育児をしていた30年ほど前を思い出していました。「当時の私にとって育児のワンオペは当たり前だったなぁ。時代は良い意味で変わったのだなぁ。」

某SNSの彼女のように頼れる実家も近くになかったため、いざという時の頼みの綱はご近所の同じ年の頃の子どもがいる、いわゆる「ママ友」たちでした。ごはんのおかずを分担して作ったり、ママチャリに子どもたちを乗せて買い物や遊びによく出掛けたりしたものでした。当時は大変でしたが、毎日がとても楽しく、私は子育てと専業主婦業を謳歌していたのでした。しかし、そんな楽しい時間も長くは続かなかったのです。あまりにも楽しそうにしている私に嫉妬したかどうかは定かではないのですが、旦那がある日突然仕事から帰ってきて「お前も働け。保育園申し込んできたからな。」と言うではないですか。「はぁ?保育園申し込んだってどういう意味?私仕事してないのに。」「だからこれから仕事探して来いよ。」「はぁ?」・・・。そんなやり取りを経て、私は泣く泣く近所のスーパーのパートに出ることになりました。

そんなことは何も知らずに遊ぶ子どもたちを横目に、私は泣きながらミシンを踏んで保育園のお布団カバーやら通園バッグなどを準備したことを今でもはっきりと覚えています。

それから5年間、旦那は一度たりとも保育園の送り迎えをしてくれることはありませんでした。何度かお願いしたことはありましたが、そのたびごとに「それは俺の仕事ではない。」の一点張りでした。

今更ここで恨み節を言いたいわけではないのですが、当時を振り返って思うのは、おそらく旦那も彼なりに育児を手伝ってくれていたのです。実際に子どもたちを連れて出掛けたり、面倒を見てくれたりもしました。ただしやってくれることの範囲と家事育児の分担の境界線は私の望むものとは大きくかけ離れていただけで、ワンオペだと思っていたのはおそらく私だけだったと思うのです。

今の保育園で子どもたちの送り迎えをしているパパたちの姿を見ると「私ももっと上手に旦那に育児に参加してもらうべきだった。」と、当時の未熟だった自分を残念に思うのです。お迎えに来てくれたパパに喜んで駆け寄る子どもの姿。なんとも微笑ましい光景です。彼は一度もそれを体験することなく、子どもたちはあっという間に成長してしまいました。

子どもが小さいうちは「早く大きくなあれ」と思うものですが、過ぎてしまうと本当にあっという間です。ですから、どうかみなさまも貴重な子育て体験を逃すことなく、十分に楽しんでもらえればと思います。

ちなみにワンオペはワンオペレーションの略で、ワンオペレーションは和製英語だそうです。

朝ごはんのはなし|2022年4月

 みなさん、今朝は何を食べましたか? 朝食はごはん派ですか?それともパン派?もしくはシリアル派でしょうか? 日本の朝ごはんの定番と言えばごはんに味噌汁。おかずはのりや納豆、卵焼きや焼き魚と言ったところですが、では他の国ではどんな朝ごはんが食べられているかご存じでしょうか?

 中国や台湾では朝ごはんはお粥だと思っていましたが、実は揚げパンと豆乳スープが朝ごはんの定番だそうです。ベトナムでは日本でもお馴染みのフォーが朝ごはんとして食べられています。ここ数年で知名度がぐんと上がったエッグベネディクトはニューヨーク発祥のおしゃれな朝ごはんメニューです。イタリアでは朝から甘いペストリーを砂糖がたっぷり入ったカプチーノと一緒に食べるのが一般的だそうで「朝からしょっぱいものを食べる日本人の朝ごはんが信じられない」というイタリア人の話を聞いたことがあります。朝から甘いものと言えば、スペインではチュロスとココア、ベルギーではワッフルが朝ごはんだそうです。

 なるほど、それならば甘いもの(お菓子)も朝ごはんにはありなのか?と早合点してしまいそうですが、実は欧米では料理に砂糖を使いません。その代わりに朝から甘いものを食べて一日に必要な糖分を補っているのです。日本やアジアの国のお料理には砂糖を使うので、欧米諸国の食文化を朝だけ取り入れてしまうと糖分の摂りすぎになってしまうので注意が必要です。甘い菓子パンなどは子どもの朝ごはんにはうってつけですが、食べる量や頻度などは工夫をした方が良さそうですね。

 この春から職場復帰し、新生活のスタートを切った方もいらっしゃると思います。働く子育て世帯の朝はそれこそ戦場さながらの忙しさで、子どもや自分の身支度をしながら朝ごはんを作って子どもたちに食べさせるのは至難の業だと思います。せっかく作ったのに食べてくれなかったり、後片付けに手間取って遅刻してしまったりと、毎朝四苦八苦されているのではないでしょうか。

 ネット上では様々に工夫された子ども向けの朝ごはんメニューや時短、作り置きレシピもたくさんあるのでそれらを試して「我が家の定番朝ごはん」を見つけてみるのもいいかもしれません。

 農林水産省が発表する食育白書によると、朝ごはんを食べない小中学生の割合は近年増加傾向にあるようです。子どもの朝食抜きは体や脳の発達にも影響を及ぼすと言われています。とはいえ、時間が無いのにだらだら食べる子どもに「さっさと食べなさい!」と声を荒げたり、子どもを一人だけにして食べさせたりするのは好ましくありません。また目覚めてすぐでは食欲も起きません。起床後から朝ごはんまではできれば30分程あけるのが理想的だそうです。 まずは家族みんなで早寝早起きの習慣から、そしてゆとりある一日のスタートが切れるよう、無理のない範囲で理想の朝ごはんタイムに近づけるよう少しずつ心掛けてみてください。

※食事に限らず、育児でお困りのことがありましたら お気軽に担任、職員までご相談ください。

手作りコサージュ|2022年3月

卒園、入学式シーズンですね。

春のフォーマルな装いを一段と引き立ててくれるのがコサージュですが、いざ探してみると案外自分好みのものが見つからず、ということで、今回はコサージュを手作りしてみました。材料は100円ショップで揃うものなのに、見栄えはお値段以上、想像以上です! コサージュの作り方はネットや動画などでも多数紹介されていますが、とても簡単で2時間もあれば作れてしまうので、こちらでもご紹介したいと思います。

① リボンを50㎝ほどにカットし、リボンの端から縫いはじめます。縫いはじめはギャザーを寄せる反対側のリボンの角から針を入れ2㎝ほどは斜めにギャザーを寄せる側へ向かって縫い、そのあとは端から1~2ミリほどの位置をリボンの端に沿って縫います。(ポイント:縫った部分から少しずつギャザーを寄せるように糸を絞っていくとあとで形が作りやすいです。ギャザーを作る時、強く糸を引っ張ると糸が途中で切れてしまう事があるので、あまり強く引っ張らないように!ミシンで縫う場合は一番目を粗くして縫ってください。)

② 縫い終わりも縫いはじめと同様にリボンの端2㎝ほど手前からギャザーを寄せる反対側に向かって縫います。縫い終わったら糸を引っ張り、リボンにギャザーを寄せてお花の形になるよう整えます。ギャザーが緩んでお花の形がくずれないよう中心部分を固定するようにしっかりと縫い付けます。(ポイント:縫いはじめの斜め三角部分がギャザーを寄せると少し飛び出すので、その部分を花の軸にしてギャザーを寄せたリボンを巻き付けるようにして縫い付けると固定しやすいです。ここでも糸を強く引っ張りすぎると切れてしまうのでゆっくりと慎重に!)

③ リボンの花は好きな数だけ作ります。(今回は色が微妙に違う2色のサテンリボンで3個ずつ、計6個のお花を作りました。オーガンジーなど違う素材のリボンを組み合わせても素敵ですね。リボンの素材や幅に合わせて使うリボンの長さは適宜調整してみてください。)

④ 出来上がったリボンの花にビーズを付けながらそれぞれの花をつなげて最後はリースのように輪にします。糸を通す順番は、花芯の裏側から針を刺し→花芯の表に針を出し→ビーズを通し→花芯表側から花芯の裏側に向けて針を刺し→次の花芯裏側へ~を繰り返し、最後は最初の花の花芯裏側につなげて輪にします。輪にしたら糸を少しずつ引っ張ってふんわりした丸いドーム型になるよう形を整え、形が決まったら糸で固定し、最後にブローチピンを裏側にしっかりと縫い付けて完成です。 分かりにくいところがあったらどうぞご遠慮なくご質問ください!

趣味と子育て|2022年2月

みなさん趣味はお持ちですか?

『出産と共に遠ざかってしまったけれど、そういえば以前は楽しんでいた趣味があった』『今は子育てと仕事と家事で日々忙殺されて趣味どころではない』といった方が大半かもしれません。

 インターネットで子育て、趣味、というキーワードで検索をしてみると、子育て中の奥さんが出産育児でしばらく遠のいていた趣味のダンスがどうしてもやりたくて、子どもを保育園に預けてまで踊りに行った。せめて子どもが1歳になるまで待てなかったのだろうか。というような内容のご主人からの投稿を見つけました。

子どもが出来たなら自分の趣味はしばらく我慢すべきだ、子どもと一緒に家で踊ればいい、というような意外にも手厳しい意見が回答として寄せられていましたが、みなさんはこの状況をどのように思いますか。私はたった数時間でリフレッシュ出来るなら、彼女にその時間を作ってあげたらいいのではと思いました。

おそらく彼女は初めての出産、育児で、子どもが産まれてからずっと頑張ってきたはずです。でもその傍らで「なぜ自分ばかりがやりたいことを我慢して子育ての犠牲にならなければならないのか」と自問自答を繰り返し、時に涙してきたのではないでしょうか。

 子育ては大変な仕事なので出産前と同じ生活を望むのには無理がありますが、自分ばかりが我慢している、という感情を持ったままで子育てをすることは良くないように思います。

産後うつになってしまったり、子どもにあたってしまったり、夫婦不仲を招くくらいなら、数時間子育てから開放してあげても全く損はないと思います。もちろん物事には限度があり、その回数や時間が度を越してしまうなら話は別ですが。

 私が子育て真っ只中だった頃、誰かに子どもを預けて一瞬だけ自由な時間をもらったことがありました。結論から言うと子どものことばかりが頭に浮かび一人の自由な時間はちっとも楽しいものではありませんでした。あれだけ待ち望んだ時間だったにもかかわらず、さっさと切り上げて子どもたちの元へ一目散で帰った記憶が今もはっきりと残っています。

 子どもが産まれ生活が一変し、以前は楽しく感じられたことも今はそれほどでもなくなってしまっているかもしれません。『自分は我慢をしている』という負の感情だけがどんどん大きく膨らんで、すでに自分の中では価値を失った物事をまぼろしのように追い求めているだけかも知れません。でもそれは実際に自分自身で確かめてみなければわからないことなのです。

 忙しいながらも、家事や育児とのバランスを取りながら自分だけの楽しみの時間を持つことは、生活にもメリハリが生まれ暮らしを豊かなものにしてくれるはずです。

※赤沢保育園では一時預かり保育も行っております。育児による疲労・ストレスからのリフレッシュを目的としてご利用いただくことも可能です。

子供の幸せを願って その3|2022年1月

 『子どもの良いところを伸ばす』と聞いてみなさんはどんなことを頭に思い浮かべるでしょうか。子どもの資質や才能を見出すことはたやすいことと思えないのは私だけでしょうか。なぜなら『良い』と感じるのは私自身の価値観で、またそれはその時々の状況に流され、変化したりもするからです。仮に子どもの良いところを見つけてあげたとしても、それを伸ばしてあげるために維持し続けることは容易ではないように思えるのです。

 今回は、たとえ周囲から何と言われようとも、我が子の一番の理解者、協力者となって信念を曲げずに子育てをした結果、子どもの良いところを十分に伸ばして大きく実を結んだ例をご紹介したいと思います。

 その男の子が2~3歳の頃は近所の公園に連れて行くと、砂場で黙々と泥だんごを作り続け、夕方になっても「砂場のふち全部に泥だんごを置くまで帰らない」という頑固さに、母は気長に付き合ってあげていたそうです。幼稚園の頃はひたすらトラックの絵を描き、小学校へ上がると今度はトラックの絵に妖怪の絵が加わり、そしてある日を境にタコの絵ばかりを描き続けるようになったそうです。

 小学校へは教科書の代わりに魚の図鑑をランドセルに入れ、放課後になると近所の魚屋や図書館に通い、明けても暮れてもタコに心酔する息子に母は毎日のようにタコのお刺身、タコの煮つけ、タコの酢の物を晩御飯に作ってあげたそうです。

 そればかりか週末には息子を水族館へ連れて行き、閉館時間までずっとタコの水槽の前から離れない息子に「タコって面白いんだね、お母さんもどんどんタコが好きになってきたよ。」と言って、タコに夢中な息子に付き合ってあげたのだそうです。

 少年の興味はその後タコから魚全般へと領域を広げていきます。学校帰りには往復2時間もかけて大きな魚屋まで足しげく通い、いつしか見よう見まねで魚をさばくことまで出来るようになります。母は魚を買うときは必ず一匹まるごと買い、料理の前に息子に魚の絵を描かせるのでした。

 そんなお魚ばかりの生活をしていたら当然のことながら学校の成績は下がるいっぽうです。「授業中に魚の絵を描いてばかりで授業にまったく集中していません。おうちでも学校の勉強をきちんとやるように指導してください。」という先生に、「あの子は魚が好きで、絵を描くことが大好きなんです。だからこのままでいいんです。成績が優秀な子がいればそうでない子もいて、だからいいんじゃないですか。みんなが一緒だったら先生、ロボットになっちゃいますよ。」と、お母さん。私が仮にこの子のお母さんだったら先生の言葉に動揺し、「お魚だけに没頭することが良いこと」とは決して思えなくなり、どうにかして勉強させる方法を考えたと思います。

 「お魚が好きならとことんやりなさい。」というお母さんの一貫した姿勢に支えられ、少年は自分の中から湧き出てくるお魚への情熱を一度も我慢することなく大人へと成長し、後に「さかなクン」の愛称でテレビの人気者となり、遂には子どものころの夢だった東京海洋大学の先生になったのです。

 子どもの幸せってこういう事なんだな、と彼の自伝『一魚一会』(いちぎょいちえ:講談社)を読んでそう感じました。おそらく小中学生向けに書かれた本だと思いますが、子育てをする親の目線で読んでみてもとても面白いと思いますので、この年末年始に家族みんなで読んでみてはいかがでしょうか。

子供の幸せを願って その2|2021年12月

 あれは息子が小学校6年生だった時のこと、彼は光栄にも運動会のリレーの選手に選ばれたのでした。誰よりも小柄で体の弱かった息子の立派に成長した勇姿に、私は祈るような気持ちと声にならない声で声援を送っていました。しかし残念なことに息子はゴール目前で転んでしまい息子のクラスは最下位になってしまいました。落胆する級友たちの声に顔を歪めて泣く息子の顔が、ふと今読んでいる本の一節で脳裏に蘇ってきたのでした。

 『世界一幸せな子どもに親がしていること』という本をご存じでしょうか。アメリカ人とイギリス人の女性がそれぞれオランダ人の伴侶を得て、自分の生まれ育った環境とはまったく違うオランダという国で妊娠・出産・子育てを体験し、その中で感じた様々なことが書かれているとても興味深い本です。オランダは、ユニセフの子どもの幸福度調査でも常にトップで、多くの子どもたちが生活に満足し幸せを感じている国なのです。ちなみにみなさん日本は何位くらいだと思いますか?いじめや生活満足度といった精神的幸福度の分野においてはなんと33か国中32位と日本はほぼ最下位なのです。トップのオランダでは実に90%の子どもたちが幸せだと感じているのに対し、日本では62%の子どもたちしか幸せだと感じていないのです。なお数学・読解力などの学力分野では日本はトップ5に入っているのですが、「すぐに友達ができる」といった社会的スキル分野においてはまたしても下から2番目なのです。

 ではどうしてこんなにオランダの子どもたちが幸せだと感じているのでしょうか。日本の子どもたちとはいったい何が違うのでしょうか。この本の中でたびたび出てくる『子どもをプレッシャーの中に置くことは最も避けるべきことだ』というオランダの教育方針は、明らかに日本とは違う部分の一つではないでしょうか。日本の子どもたちは小学校へ上がると同時に段階評価を受け、他者と比較され、時には連帯責任を取らされ、競争社会へと突入していくのに対し、オランダの子どもたちは学業成績でトップになることなどは求められておらず、子どもたちだけで外遊びをすることが励行され、遊びの中から自らが判断する力、社交能力や安全・環境面への配慮、他者との関係性などといった社会性を身に着けることに重点を置いて育てられているのです。

 オランダの教育は『人と競争させない』教育であり、それは勉強以外の場面においても同様で、運動会の競技も勝ち負けを競い合うことが前提ではないので、徒競走では仮に遅れている友だちがいたなら、その友だちを待ってから手を取り合って一緒にゴールするといった具合なのです。

 あいにく私の息子はそのリレーがきっかけかどうかは定かではありませんが、その後運動嫌いになってしまいました。でも彼は転んだ人に手を差し伸べるだけの優しい心を持ち合わせた大人に成長してくれたと信じています。他者と競り合うことを教育に取り込むとしたら、勝つことを目標にするのももちろん大事ですが、結果よりも他者への配慮や関係性を学ぶことにより重点を置くべきなのかもしれません。そして成功の体験よりもむしろ挫折や失敗の体験から学べるきっかけを作ることが重要なのではないでしょうか。

 テレビからは連日のようにいじめに関する痛ましいニュースが後を絶ちません。一人でも多くの子どもが幸せだと感じられる環境を作るためにも、その分野においては突出しているオランダから学ぶべきことがまだまだたくさんあるように思います。

(次月に続く)

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 赤沢保育園のクラスの動物のイラストを描いてくださったイラストレーターの西山りっくさんが、子どもたちと一緒にクリスマスお楽しみ会で飾る絵を描いてくださることになりました。詳細についてはまた別途ご連絡いたします。

子供の幸せを願って その1|2021年11月

 子どもの将来のことを考えない親はどこにもいないでしょう。贅沢な望みや過度な期待はしない、月並みな表現ですが、幸せな人生を歩んでもらいたい、親になりたてだった頃は腕の中で眠る小さな我が子を眺めそう願ったものでした。やがて保育園を卒園し、地元の小学校に通うようになると、学校の先生やクラスの友達との人間関係が気になりだしました。学校の成績などは二の次で『どうかいじめなどのトラブルにあわないよう、健やかに楽しい毎日を送ってほしい』そんな祈るような思いで毎朝学校に向かう子どもの背中を眺めて見送ったものでした。

 その後、なんとなく周りの風潮に乗ってしまい子どもたちを学習塾に通わせることになりました。過去の事を後悔することはあまりないのですが、塾に通わせ中高一貫の私立学校へ進学させたことについては、果たして子どもたちにとって良い選択だったのだろうかと今でも半信半疑です。

 自分自身が社会に出て嫌というほど味わった学歴差別を、実は子どもたちの人生を通して無意識のうちに見返してやりたかったのではないかと、そのために子どもたちは遊ぶ時間を犠牲にし塾通いを強いられたことを申し訳なく思わずにはいられないのです。

 結果として荒れていた当時の公立学校には進まずに済んだことは良かったのかもしれないが、じゃあ公立の学校に進んだ子どもたちがすべて不幸で大変だったのかというと、全くそんなことはないはずです。

 子どもの幸せを願って、親は何をすべきなのでしょう。みなさんの選択肢と視野が少しでも広がるよう、私自身が見聞きしたこと、経験したこと、学んだことを今後この場で少しずつシェアできれば良いなと思っています。         (次月に続く)

親の嘘|2021年10月

 2歳になる姪っ子を丸一日預かって面倒をみたときのことです。手をつないで歩いていると、ふと目の前に「うわぁー、これはねだられそうだな~。」と思える場面に出くわしたのでした。私は思わず踵を返し「今日はお金持ってないからね。」と先手を打ったつもりが「うそ!もってるよ」と姪っ子は駄々をこねてしまったのでした。

 この2歳児はおそらく似たような状況下で親から同様のセリフを過去に言われた経験があり、その経験から私の発言を瞬時に嘘だと思ったのでしょう。実際には本当にお財布を持っていなかったのでお金はなかったのですが、親はしつけのつもりで子どもに嘘をつくことがあり、その親の嘘はどのような影響を子どもに及ぼすのか、とても気になったので調べてみました。

 調べていくとダブルバインド(二重拘束)という言葉が出てきました。ダブルバインドとは二つの矛盾したメッセージを出して相手を混乱させる可能性のあるコミュニケーションのことで、親子間に限らず大人の世界でもあることで、エスカレートすればハラスメントに発展するものでもあります。

 では具体的に親子の間でよくあるダブルバインドの例を挙げてみましょう。「おもちゃを片付けなさい、片付けないなら全部捨てちゃうよ」とか、(親)「好きなものなんでも買ってあげるよ」(子)「じゃあこれが欲しい」(親)「これはダメ」(子)「好きなものなんでもいいって言ったじゃない」というものです。誰もが子どものころに言われた経験があり、親になった今は日常で無意識に使っているものではないでしょうか。もちろん親には嘘をついているという意識は微塵もなく、いつだって子どもには「いい子に育ってほしい」「幸せな人生を歩んでほしい」と願っているのです。でも何気なく発せられた親の嘘や矛盾のメッセージで子どもたちは混乱し不安を感じて追い詰められているのです。追い詰められた後でそれが嘘だと知ったら、子どもはどんな気持ちになることでしょう。子どもには「嘘はついてはいけないよ」と教える親が、一方では子どもたちに嘘をついていては説得力がありません。どんなに子どものことを思ってついた嘘でも、嘘は嘘なのです。

 では、いかなる場面でも親は子どもの前で一貫性を保ち、嘘のない正直な姿でふるまわなければならないのでしょうか。完璧を求めるあまり、親がストレスを抱えてしまっては逆に子どもにも悪影響でしょう、と個人的には思います。言葉の駆け引きから相手の嘘や本音を見抜くことも成長していく上でとても大切な学びだと思います。まだ経験や理解力が浅い子どもには時には大げさな表現で物事の重大さを伝えることも一つの手段だと思います。

 2歳の姪っ子はつい半年前まではまだ片言しか話せなかったのに、ずいぶん大人なやりとりができるようになったことが私はとても嬉しく感じました。大切なのは子どもとかかわれる時間や成長を楽しむことではないでしょうか。